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研究報告


平成13年度高等専門学校教員研究集会(第一斑)・資料
(2001.8.23-24 於・福井市)

第1テーマ 「『ものづくり』教育の現状と新しい在り方について」


モノづくりを通じて「教え授ける」から「学び修める」教育へ
― 高松高専・制御情報工学科の実践事例 ―


高松工業高等専門学校 制御情報工学科
平岡延章・十河宏行・藤澤正一郎・由良 諭

1. はじめに

 今日,バラエティに富む「モノづくり」プログラムが, 高専で,大学で,またエンターテイメントとして 多々企画・実施されている1). これら個々のプログラムで「モノづくり」に何を求めているかは, 百者百様である.
 本報では,高松高専・制御情報工学科において1996年度から はじめたモノづくり授業「メカトロニクスシステム設計」を題材に 「モノづくり教育」に対する我々の考えを述べ,授業の概要を紹介したい.


2. 背景2)

 時間割に沿って日々の授業をこなすなか,教師主導の 「教え授ける授業」に釈然としない思いを抱くことはないだろうか.

■先生の話が続いていても,終業のチャイムとともに筆記具を 片付けノートを閉じる学生たち,ずっと刷り込まれてきた条件反射!
 −「これでいいのかな〜ぁ??」

■汗を流して板書し,微に入り細に入り説明する先生に対して, 窓の外をぼんやり眺めたり,居眠りをしたり,身づくろいに 余念のない学生たち.
 −「あなたたち,何のために授業料を払ってるのっ??」

■ある授業の時間
先生「ここのところは,去年の授業で習った式を使って・・・」
学生「そんなん,もう忘れた〜!」
    :

そして実験の時間
先生「この結果は,○◆の授業で習った式で処理する・・・」
学生「な〜んで〜ぇ,ほかの教科で習ったこと使うの〜・・・」
    :
 −「試験までの短期記憶,科目ごとの縦割り学習・・・, なんか変だっ!!」

 このような思いの中から学生自身が「学び修めること」を 目指した総合授業「メカトロニクスシステム設計」が生れた.


3. メカトロニクスシステム設計の心

 「メカトロニクスシステム設計」は「モノづくり」を通じて, 「創造性・自主性の育成」と「具体的課題への知識・技能の適用」を 学ぶ実践的総合教科である.また,マスプロ教育の中で, 「教師が教え授ける教育モデル」から「学生が学び修める教育モデル」への 転換を志向する教科である.
 したがって,「何かを作る行為」自体を目的とした教科ではない. 真の目的は,一つのプロジェクトを立ち上げ,その結果をまとめ上げるまでの 全過程を一通り体験することであり,「ひとまとまりの仕事をする」とは どういうことなのかを身をもって学ぶことにある.
 エレガントな結果は要求しない.小さな失敗は大歓迎, 技術者にとって失敗経験は財産だ. 3歩進んで2歩戻る苦しみを経験しよう. 「ロボットを作ったこと」が将来の仕事に直接役立つことは ないだろう.でも,ここで学ぶ「仕事のまとめ方」はきっと役立つ!
 「自ら学び修めること」を求める授業は,学生たちに戸惑いをもたらす. ひたすら教えを待ち続ける学生たち,安直に過年度の資料を探し回る学生たち.

 我々から,学生諸君に捧げるキーワード:

   考えなさい!
        試してみなさい!
             調べてみなさい!

   手を動かしましょう!
          自分で確認しましょう!

   答えだけを欲しがってはダメ!
          人の丸写しはダメ!



4. 「教え授ける」から「学び修める」へ

4.1 新しい教育モデル

 三つ子のころから「教え授けられること」に慣らされた学生たちに, 言葉で自主性を「教える」ことが可能か? 教師側の発想の転換が必要である. そして,学生の自主的行動を喚起し,創造的・実践的学習を促す 新しい教育モデルが必要である.
 「メカトロニクスシステム設計」は,学生自身が自ら 動かざるを得えない環境を用意し,学習環境を通じ間接的に働きかける 教育モデルを提案する.このモデルでは,教師は「直接教え授けること」を 放棄し,学生が「自ら学び修めること」を支援するため学習環境を整える ことに力を注ぐ.
 その結果,授業時間中の教師の役割は「ティーチャー」から 「アドバイザー」に,教師の仕事は「教授」から 「より良い学習の場の提供」に,授業の区切りは「学習時間」から 「学習成果」に,と変化する.


4.2 教師の役割り

  広く学習環境を整備することが全てである. 以下に,具体的に考慮すべき項目を列挙する.

@ 授業計画
授業の枠組みそのものであり,年間スケジュールの立案, 製作テーマの設定,グループ分け,人員配置など多岐にわたる.

A 空間的環境
実験室,実習工場,CAD室など作業場所の確保,資材・資料置場の確保

B 時間的環境
授業時間の確保,時間割の調整,放課後や長期休業中の利用計画の立案

C 知的環境
関連する広範な分野について,書籍,雑誌,データブック,カタログなどの 収集と提示

D 経済的環境
測定機器,パソコン,工作機器,手工具などの整備,製作過程での 物品・資材の調達

E 精神的環境
いろいろな内圧・外圧に対する防波堤として,たとえば, 学生の不満受付,学内・学科内教員との調整・意思疎通, 技術職員との仲立ち・意思疎通,保護者との調整・意思疎通, 事務職員との調整・意思疎通など

 結局,「メカトロニクスシステム設計」というプロジェクトを 運営するプロジェクトマネージャが教師ということになる.


4.3 他教科との連携

 「メカトロニクスシステム設計」のような総合教科は, それ単独で成り立つものではない.「教え授ける」教科で得た 知識・技能を前提として初めて成立する.すなわち, 「学び修める教育モデル」は,「教え授ける教育モデル」に 取って代わるものではない.両者は互いに補完しあい相乗効果を 産み出すべきものである.


5. 実践事例紹介

5.1 授業概要

 「メカトロニクスシステム設計」は4年生の通 年・必修科目で,授業時間は週7時間である(メカトロニクスシステム設計・ 4単位+工学実験U・3単位).メカトロニクスシステム設計(4単位)の 成績は,定期試験(設計問題と作文技術)により評価し, 工学実験Uの成績は,表1に示す提出物とプレゼンテーションにより 評価する.図1は,中間発表のようすを伝えるWeb Pageである.


表1. 評価項目と実施時期
第1回中間報告書(5月末)
チーム別ディスカッション(6月上旬)
中間発表会(7月初旬)
ロボットハードウェア提出(9月中旬)
第2回中間報告書(9月中旬)
プレ・ロボット競技会(10月末)
ロボット競技会(学生祭・11月)
ロボット性能試験(11月末)
最終発表会/td>(2月初旬)
最終報告書(2月中旬)


fig1

図1. 中間発表風景を伝えるWeb Page

 授業では,標準5名で1年間行動をともにする製作チームを 構成する.各チームは提示された課題を実現する自動機械 (プログラム制御の自律ロボット)の考案,設計,製作, 設計書作成を行う.零からスタートすることを重視するため, 製作課題は毎年異なる.
 なお,詳細は,参考文献3−6)をご参照ください.


5.2 教師の仕事

 授業は教師4名で担当し,メンバーは年度により異なる. 授業時間は,実験室,CAD室などの作業場所に適宜分かれ学生たちの 作業状況を見守る.学生の求めに応じて資料の紹介やアドバイスをするが, 手取り足取りの教授はしない.
 放課後や長期休業中に作業場所として実験室等を開放するため, 担当者はこの間実験室や教官室で待機することとなる. ここでも,物品の受払いやちょっとしたアドバイスが中心で, 学生の作業に直接手を出すことはない.なお,授業時間外の作業は, 任意参加であり強制はしない.進捗の管理はチームリーダたちの仕事である.
 年間スケジュールの管理者として,先読みをして準備をすることは, 教師の重要な仕事である.定期試験や学校行事予定をにらみながら, 報告書の締め切りや発表会の日程を調整し,学生の負担を分散させる. 学生たちの肉体的・精神的健康にも気を配る必要がある.
 他の授業と運営形態が異なるために生じる雑音の処理も必要. 「授業中,校内をぶらぶら歩いている」,「実験室の片づけができていない」, 「実習工場でのマナーが悪い」,「クラブに出てこない」, 「夜,帰宅が遅いのだが,本当に学校に残って居るのか」などなど.


6. 「学び修める」教育モデルの評価

 「メカトロニクスシステム設計」は今年で6年目を向かえる. 第1回目の受講者が社会に出て4年目,また大学に進学したものが 修士課程2年生となる.この間,授業運営方針に大きな変更はない.
 「学び修める」を志向したメカトロニクスシステム設計が, 履修した学生たちによい教育効果をもたらしたと評価できるか. 卒業研究の遂行過程に生かされたか.専攻科・大学・大学院に 進んだ者にとって,学究生活の糧となったか.企業に就職した者にとって, 職業生活の糧となりえたか.
 卒業研究ではよい効果が見られる.卒業研究課題に沿って資料を調べる, 発表の準備をする,といった場面で事細かに指示する必要が無くなった. 来訪する卒業生からは,「仕事のまとめ方が分かり, 大いに役立っている」,「あの授業のおかげで,新しいことに 取り組むことが怖くない」といった肯定的な意見が聞かれる.
 ただ,4年生で受講中に拒否反応を示す学生が少数ではあるが 存在することも事実である.待てど暮らせど自主性を示せない学生に どう対処するか.「学び修める」教育を施す時期が,彼らの殻を 突き破るには遅すぎるのかもしれない.
 修士課程に進んだ受講1期生が社会人となる来年あたり, 新しい教育モデル「メカトロニクスシステム設計」の系統的な評価を試みたい.


7. まとめ

 高松高専・制御情報工学科のモノづくり教育プログラム 「メカトロニクスシステム設計」の理念を述べ, その概要を紹介した.この授業は,マスプロ教育における 「モノづくり」を利用した新しい教育モデルの提案であり,実践事例である.


参考文献

  1.  たとえば,日本機械学会・ロボティクスメカトロニクス講演会の 「もの作り教育とメカトロニクス」,「メカトロニクスと遊ぶ」, 「ロボコン関連」などのセッションで,毎年多数の事例発表が行われている.
  2.  高松高専・制御情報工学科のWeb Page, URL: http://www.takamatsu-nct.ac.jp/SE/ の「 モノづくり教育」のページ 「 『メカトロニクスシステム設計』の心」より引用.
  3.  平岡延章,十河宏行,由良諭,川田和男,藤澤正一郎: モノづくり教育のパラダイムを求めて  ――高松高専・制御情報工学科の実践事例――, 高等専門学校の教育と研究 別冊第2号 創造教育実践事例集,No.2,2-9,2000.
  4.  "モノづくり教育"のパラダイム考  高松高専・制御情報工学科の実践事例より, 日本工業新聞,平成12年10月18日より5回連載.
  5.  川田和男,平岡延章,十河宏行,徳永秀和,由良諭: 羽ばたくメカトロ技術者の卵たちのために  ――メカトロニクスの実践教育――,論文集「高専教育」, 22,365-372,1999.
  6.  平岡延章,十河宏行,徳永秀和,由良諭,川田和男: 学生に目的意識を抱かせる方策 (高松高専制御情報工学科における実線事例報告), 平成9年度四国地区高等専門学校教官研究集会,1997,9,新居浜.