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研究報告


工学教育
Vol.51,No.5,18-22,2003.


高松高専制御情報工学科における
モノづくり教育と創造性育成教育


高松工業高等専門学校 制御情報工学科
藤澤正一郎,平岡延章,十河宏行,由良諭

  高松高専制御情報工学科は機械・電子・制御の 3つの基本的な分野から構成されている.本学科の 目的はメカトロニクスシステムのようなシステムを 統合することができる技術者を育てることである. この論文では「メカトロニクスシステム設計」の事例研究に ついて述べる. この科目は基本設計から詳細設計,製作,報告書の 作成に至るまでのすべての過程を学生が学ぶ実用的な科目である. 課題の一つは自律型ロボットの競技である.学生はこの課題を 達成するためにある期間,他のメンバーと協調してプロジェクト・チームを 組織して取り組むことになる. この科目では多くの教育的な利点が得られた.

1. はじめに

  来年に控えた独立行政法人化に向けて高等専門学校(以下, 高専)制度のあり方が中央教育審議会や文部科学省で検討されている. 「活性化」「高度化」「個性化」を視点とした高専制度が新たに 船出しようとしている.従来の「実践的技術者の育成」に加えて, 「高度」で「創造性」に富む技術者の育成が 求められている1),2)

  高松高専制御情報工学科では,機械・電子・制御各専門分野を 基礎として,これらを複合・統合し,システムとして構築することが できるメカトロニクス技術者を養成することを学科の目的としている. 各専門分野の基礎について,十分に理解させていくことは,非常に 重要である.加えてこれらの各専門分野間を統良く結び付けて いくインターフェース技術を理解する能力を養成することが 重要になってくる.

  メカトロニクス(以下,メカトロ)は機械・電子・制御・ コンピュータ技術と幅広い分野の知識が必要である. 高専におけるメカトロ教育は実践的で高度な技術者を養成する上で 大変重要な分野といえる.高専の機械系学科を中心に上記の目的と合わせて 創造性育成を目的とした「ものづくり教育」が盛んに行われている.

  また近年,創造性育成教育の一環として,NHKロボットコンテストや 各種のアイデアコンテストが盛んである.このようなロボットコンテストが 大学の理工学部系離れに一定の歯止め効果を果たしたといえる. ロボットは、機械や電子,制御,情報などさまざまな工学分野を 統合した教育材として最適である.そこで,ロボットコンテストを カリキュラムとして取り入れる大学や高専が増加している3)〜5).   本学科でも,このようなロボットコンテスト形式が, 創造性育成教育において有益であると考え,また,学科の目的である メカトロニクス技術の修得を達成する上でも最適であるという観点から, 1996度より「メカトロニクスシステム設計」という科目を 設置し実施してきた6),7).以下にこの科目を 「メカシス設計」と呼ぶことにする.

  本報では,昨年度実施した「メカシス設計」を例に, その学科における位置付けや目的,内容とその教育的効果について 報告する.



2. 「メカシス設計」について

  ロボットコンテスト形式を授業に取り入れた「メカシス設計」を 本学科の第4学年で実施している.この「メカシス設計」は 「ものづくり教育」を基本とした創造性育成科目である. 各チームは与えられた競技テーマに従ってロボットを製作する. その教育目標の一つにメカトロ技術の修得があるが,それだけに とどまらず創造性育成も大きな目的の一つとなっている.

2.1 システム構成
  多くの機械システムにおいて,機械を制御するためのメカトロ技術は その中心的な役割を果たす.そこで,創造設計科目では, あるテーマに沿った競技形式による自律型移動ロボットの設計製作を 具体的な目標とする.

  図1のように自律型ロボットは機械・電気電子・制御・情報の 各分野を有機的に結び付けた学際的な学問領域といえる.近年各種の ロボットコンテストが開催されているが,アイデアの創出から 設計製作までの絶好の対象といってよい.

fig1

図1 自律型ロボットのシステム構成


2.2 「メカシス設計」のねらい
  与えられた課題に対してロボットを製作するにあたって具体的に 以下のねらいがある.

(1)アイデア の創出
  与えられた課題に対してどのようなロボットを製作し, どのようにその課題を克服するかの戦略を立てる. 独創性とアイデアが試される.各チームはアイデアについて 討議を行い,引き出されたアイデアをロボットに盛り込んで行く.

(2)基礎知識 ・専門知識 ・設計技術の融合
  高専の1年から3年で学んできた基礎知識や機械・電気電子・ 設計製図などの専門的知識を融合させて実際のロボット製作に 生かせるかが問われる.個々の科目で習ってきた知識が総動員され 問題解決にあたることになる.創出されたアイデアが実際に実現可能な形に なるかが問われる.

(3)実践的なシステム構築技術の修得
  ロボットという一つのシステムを構築する技術が重要になってくる. 機械・電気電子・制御・コンピュータ技術を有機的に結合する技術が 要求される.各要素間のインターフェース技術を学ぶことになる.

(4)総合的(シンセシス)能力の養成
  単にロボットを製作するだけではなく,ロボットの特徴や戦略に ついて他人に伝える必要がある.報告書を作成し発表を行う能力を養う.

(5)プロジェクトによる設計活動(物心両面)
  プロジェクトチーム構成によりロボットの設計製作を行うことにより, 人の意見を聞き自分の意見を述べるコミュニケーション力や協調性を 養うことができる.ものづくり教育は人づくり教育と言える.

(6)卒業研究のための技術の修得
  (1)から(5)までの能力を養うことは5年時の卒業研究の 基礎となるものである.「メカシス設計」で培った技術や知識, 経験が卒業研究で如何なく発揮されることが期待される.

2.3 プロジェクトチーム
  技術の修得の観点から言えば,学生一人一人が一台のロボットを 製作するのが理想的である.しかし,授業によるロボット製作では費用, 時間ともに十分に確保することは困難である.そこで,企業における 開発・設計に倣い,異種の技術者集団による「プロジェクト」チーム構成を 採用する.1クラス40名を8班程度に分ける.1チーム5名程度となる. メンバーは機械系と電気系に便宜上分かれる.その専門性を発揮して ロボットの開発を行うが,ここでは完全な分業制とはならない. 相互に情報交換と意思疎通が求められる.ロボットのアイデアを 現実のロボットに具現化できるかどうかの分かれ道はこのプロジェクトの 成功にかかってくる.プロジェクトチームとしての取り組みには以下の ような効果が挙げられる.

(1)システム構築の方法論や各構成要素間のシステム的な 関連を把握する能力.

(2)全体の視点から,自分の役割を把握し,担当分野に固執せず 協調して設計活動を行なっていく能力.

(3)各メンバー間のコミュニケーションや組織運営の方法を 自発的に修得していく能力.

  以上のように複数の専門分野を理解し,それらの技術を うまくつなぎあわせる技術者の育成が期待できる. 従来の解析能力だけでなく,プロジェクトチームを まとめていくリーダーの育成や専門家間の橋渡しができる人間の 育成が目的である.

2.4 年間スケジュール
  1年間を通して取り組まれる科目の内容は以下の とおりである.アイデアの考案に始まって報告書の作成に 至る一連の年間スケジュールに従って科目が遂行される. 報告書の提出や発表会はアイデア,設計,製作,競技,最終の 各段階で進捗に合わせて適宜設ける.表1に年間スケジュールを示す.

tbl1

(1)アイデア考案期間
  5月の第1回中間報告書提出に向けてロボットの アイデアや戦略を練ることになる.図2にアイデアの 考案風景を示す.中間報告書の完成を受けて各チームと 教官とのディスカッションを行い,ロボットのアイデアの 実現性や製作実現の可能性について助言を与える. 図3にディスカッション風景を示す.


fig2

図2 アイデア考案風景

fig3

図3 ディスカッション風景

(2)設計期間
  7月の中間発表会までにロボットの設計を機械系と電子系に 分かれて行う.機械系はロボットの強度計算や機構構造の決定を行う. 電子系は駆動回路やセンサ回路・PICマイコンの回路設計などを行う.

(3)製作期間
  9月の第2回中間報告書とロボットの提出までにロボットの設計の 手直しや製作が行われる.提出されたロボットの一例を図4に示す. 図からも分かるようにまだ完成には至っていない.7,8月の 夏休みも実験室を開放し自由に製作できる環境を整えている.


fig4

図4 9月の時点で提出されたロボットの一例

(4)コンテスト(競技会)
  11月の学生祭で競技会を行う.実質的にはこの段階までに ロボットを完成させることになる.大勢の観衆の前でロボットを 披露することになる.図5にその風景を示す.また,当日は模造紙を 用いた各チームのロボットの紹介も行う.


fig5

図5 学生祭でのコンテスト風景

(5)性能実験
  学生祭の競技会が終了しロボットの性能が発表されたのち, 12月に最終性能試験を行う.ロボットの性能をさらに向上させる最終の 機会とする.

(6)プレゼンテーション(発表会)
  発表会はアイデアや戦略などをまとめ,ロボットの製作に 向けた設計段階の中間発表(7月)と11月の学生祭で行われる ロボット競技会が終了し,最終報告書の完成と合せた最終発表会(2月)の 2回行う.中間発表会の風景を図6に示す.中間発表会は模造紙を用いるが, 最終発表会ではOHPを用いた発表会形式となる.最終発表会の風景を 図7に示す.


fig6

図6 中間発表会風景

(7)ドキュメンテーション(報告書)8)
  報告書はアイデアや戦略やロボットの構造をまとめた5月の 第1回中間報告書と9月のロボットの設計段階の第2回中間報告書と 2月の最終報告書(100〜150ページ)の3回の提出を行う. 提出ごとに報告書の添削を行い,技術報告書としての完成度を 高まっていくことになる.

fig7

図7 最終発表会風景


2.5 カリキュラムとの整合性
  「メカシス設計」受講までに授業や実験系科目でそれぞれの 分野の知識と技術や技能を修得している.以下のような項目が挙げられる.

(1)工学的素養だけではなく,アイデアの創出,討議する力, 工程設計,スケジューリングなどに関する知識
(2)機械系や電子系の図面を書く力(製図)
(3)工作機械を使う能力(機械加工技術)
(4)電子回路,インタフェース工学に関する知識
(5)センサや計測工学に関する知識

  3年生まで学んできた知識や経験を生かしてロボットを 製作することになるが,これまでの講義で不十分と思える ロボットの製作に特化した知識について4月の段階で講義 (3回程度)を行う.機械系と電子系に分かれてロボット製作に 必要な実用知識や技術を最低限伝えておく.また,報告書の作成に 関して理科系の作文技法の講義を定期試験(年4回)前に行う. この講義において報告書の作成能力を高める狙いがある. 定期試験では機械系と電子系の選択問題に加えて作文技法に 関する問題を出題し,評価を行っている.



3. 昨年度の取り組みとその教育効果

3.1 競技内容
  昨年度(14年度)のテーマは " 探して,見つけて, 立てましょう!" と名づけた.マイクロコントローラ(PIC)を 用いて自律制御されるロボットを製作し,図8の競技場において, 次の(1)〜(4)までに要する時間を競うゲームを行う.

(1)競技場内のスイッチ(通称:でか丸くん)の1つを押してスタートする.
(2)フェアゾーン内に倒れた状態でランダムに置いた紙製の筒 (通称:ぼうちゃん,個数1個)を探索する.
(3)見つけた「ぼうちゃん」をフェアゾーン内に自立・直立させる.
(4)スタート時に押さなかった方の「でか丸くん」を押してゴールする.

  ロボットの制約はスタート時に接地部が□200mmのスタートゾーンに 収まれば良いだけで,重量,高さとその後の伸縮は問わない.製作材料費用は 5万円である.

fig8

図8 競技場の概観と物体の仕様


3.2 教育効果
  昨年は7チームによる7台のロボットを製作した.7台の中6台が 完走したが,機構や戦略においてすべて特色のあるロボットとなった. 図9に製作したロボットの一例を示す.チームごとに製作を行うことで, 各チームがロボットの個性を出すことにも競い合うことになっている. 競技形式を採用することが独自性を追求する創造性育成の機会となっている.


fig9

図9 製作ロボットの一例

  1年間を通して設計,製作から報告書作成,発表に至るまでのすべての 過程を体験した経験は,システムを構築する能力に加えて,単なる モノづくりだけでなく総合的な能力を身に付けることができたと思われる. 図10に最終報告書で提出したロボットの完成図を示す.


fig10

図10 設計図面の一例



4. 評価方法とスタッフの心構え

4.1 評価方法
  高松高専の「メカシス設計」科目においてはその評価法の確立に 向けた取り組み9)を行っている.評価は定期試験による評価と以下の ような項目で「チーム評価」と「個人評価」に分けて細部にわたって評価を 行っている.1年間を通じてできるだけ客観的な評価を心がけている. 客観的な評価方法の確立が今後の課題と言えるが,最終的な評価には 今後社会に巣立った後の追跡調査を行う必要があると考える.

 <チーム評価>
    ・ロボットの評価
    ・チーム全体
    ・機械系と電子系に分けて
    ・発表会(予稿集)
    ・競技会の評価
    ・報告書の評価

 <個人評価>
    ・報告書(分担毎)の評価
    ・発表会(発表内容と質疑応答)
    ・日常アクティビティの評価


4.2 スタッフの心構え
  「メカシス設計」科目を受け持つ側のスタッフは 物心両面の負担は大きなものがある.しかし,学生の取り組む意欲は 想像以上に大きなものがある.スタッフは「場:環境」と「時間」の 提供に留め,物品の手配や学生の心身の管理など「黒子」に徹している.



5. まとめ

  本稿では,本学科の中核となる「メカシス設計」について述べてきた. 現在,大学・高専では独立行政法人化やJABEE対応に向けた対応が 迫られている.創造性豊かな技術者を育成することは急務と考えられる. これからも「モノづくり教育」を取り入れた「創造性育成教育」が ますます重要度を増してきている10)

  最後に,高松高専の"モノづくり" 実践教育「メカトロニクスシステム設計」の URLを紹介する.詳しくは参考文献と合わせてご覧頂きたい.
  http://www.takamatsu-nct.ac.jp/SE/mechsys/mechsys.html



参考文献

  1. 独立行政法人化国立高等専門学校機構法,第156回国会提出法案, 文部科学省,(2003.5)

  2. 松本浩之, 社会に期待される高専を目指して, 文部科学省高等教育局学生課編, 大学と学生, 458,(2002.12)11-15

  3. 藤沢正一郎,里中直樹,金田忠裕,土井智晴,森山泰秀: 阪府高専システム制御工学科におけるロボティクス・メカトロニクス教育, 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'95,(1995.6)602-605

  4. 平岡延章,十河宏行,徳永秀和,由良諭:高松高専制御情報工学科に おけるメカトロニクスシステム設計,日本機械学会 ロボティクス・ メカトロニクス講演会'97,(1997.6)743-744

  5. 松原安彦,水川真,小川和哉,安藤吉伸,春日智恵,椎名博俊: もの作り教育教材の開発(Part2),日本機械学会ロボティクス・ メカトロニクス講演会'01,(2001.6)2A1-A4(1)-(2)

  6. 平岡延章,十河宏行,由良諭,川田和男,藤澤正一郎: モノづくり教育のパラダイムを求めて―高松高専・制御情報工学科の実践事例―, 高等専門学校の教育と研究 別冊第2号 創造教育実践事例集,2,(2000)2-9

  7. 川田和男,平岡延章,十河宏行,藤澤正一郎,由良諭: 羽ばたくメカトロ技術者の卵たちのために−メカトロニクスの実践教育−, 論文集「高専教育」,22,(1999)365-372

  8. 由良諭,平岡延章,藤澤正一郎,十河宏行: モノづくり教育のための"読み,書き,そろばん" −技術者の卵達へのリテラシー教育−,日本機械学会ロボティクス・ メカトロニクス講演会'02,(2002.6)1A1-81-124(1)-(2)

  9. 由良諭,平岡延章,十河宏行,藤澤正一郎,川田和男:モノづくり・ 製作課題に対する評価,日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'00, (2000.5)1A1-K10(1)-(2)

  10. 藤澤正一郎:高専におけるメカトロと創造性教育, 日本機械学会2002年度年次大会 先端技術フォーラム「機械工学は創造性を 伸ばせるか?」,[,(2002.9)224-225