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研究報告


高等専門学校 情報処理教育研究発表会・資料
(1998.8.25 於・奈良市)


メカトロニクス教育の中の情報処理


高松工業高等専門学校 制御情報工学科
平岡延章・十河宏行・由良 諭・川田和男


概要

 高松高専制御情報工学科で実施している総合設計演習授業 「メカトロニクスシステム設計」の概要を紹介し, この授業の中で情報処理に関わる部分について詳述する. メカトロニクスシステム設計では,与えられた仕様を満足する パソコンベースの自律ロボットを,小グループに別れて製作する. 学生たちは,自身のアイディアによりロボットの機構・電子回 路・制御プログラムを設計・製作し,その過程をドキュメントとして まとめる作業を行なう.情報処理に関わる部分は, 実時間の機械制御プログラムの作成と,プレゼンテーション およびドキュメンテーションに関する部分である.

1. はじめに

 産業の空洞化,子どもの理科系離れが進むなか, “モノづくり教育”,“創造性を育む教育”の必要性が 叫ばれている.このような社会の要請に応えるべく, 現在多くの高専で“モノづくり”をテーマとした授業が 試みられている[1]-[8].本稿では,高松高専制御情報 工学科における“モノづくり”教育[9]-[11]について,情報 処理教育の観点から報告する.
 高松高専制御情報工学科は,機械工学科をルーツ とする機械系の複合学科で,メカトロニクス技術者の 養成を教育目標の一つとしている.カリキュラムは,お よそ機械工学40%,電子工学30%,情報工学20%, 制御工学10%により構成され,学生は広く浅く学際 的教育を受ける.当学科の授業分野を関連付ける キーワードは「メカトロニクス」であるが,ともするとバラ バラで互いに関連のない雑学に陥る傾向がある.学 科発足後,4分野の連携を模索するなか,“モノづく り”をテーマとした総合授業「メカトロニクスシステム設 計」が提案された.
 以下は,「メカトロニクスシステム設計」の概要ならび に「メカトロニクスシステム設計」に関連する情報処理 教育についての報告である.

2. 「メカトロニクスシステム設計」概要

2.1 目的

 「機械工学」,「電子工学」,「情報工学」の3分野に またがる複合学科において,分野間の関連付けを行 い,学生にわかりやすい学習目標を与えることは重要 課題である.メカトロニクスシステム設計は,この要請 に応えるため,平成7年度から授業計画に着手し,平 成8年度に創設された. メカトロニクスシステム設計では以下の項目の実践 を教育目標とする.
  • 機械工学・電子工学・情報工学の3分野間の関 連を明確にし,学科として統一的かつ具体的な 学習目標を学生に示す
  • 提示された仕様書から,これを満足する機械シス テムを創り上げるまでの全過程を経験させる.
  • プレセンテーションならびにドキュメンテーション に関する技術を修得させる.
  • 視野を広げ,かつ得意分野を深めるための場を 与える.
  • 学生の創造性を育む.
  • 学生に目的意識を持たせ,自主性を育てる.
  • 小人数のチームによる共同作業を通じて,協調 性を養い,実力のともなったリーダを育成する.

2.2 課題設定

 “モノづくり教育”,“創造性を育む教育”の成否は, 学生の好奇心をそそる課題の設定に懸っている.メカ トロニクスシステム設計の課題の難易度は,学生が努 力することにより達成可能であり,かつ安易な取り組 み方では達成不可能な程度を設定目標とした.また, 課題内容は,機構設計・電子回路設計・プログラム設 計を総合するという観点から,プログラムにより自動制 御を行なうロボットの設計・製作とした.
 これまでに実施した課題は,以下の通りである.

○ 1996年度の課題: 「サーチandムーブ」
 縦横20cmのスタートゾーンに収まる大きさのセ ンサーベースロボットを設計・製作し,パソコンによ り自律制御を行なう.ロボットは,図1に示す競技場 のどこかに置かれたスチール製の空缶(250ml ジュース缶)を探し,競技場中央のゴール円内に運 ぶ作業を行なう.ロボットの性能は,動作の確実性 とゴールまでの所要時間により評価する.
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作品1
図1.1996年度の競技場と製作したロボットの例

○ 1997年度の課題: 「カップ取ってきまい」
 縦横20cmのスタートゾーンに収まる大きさのセ ンサーベースロボットを設計・製作しパソコンにより 自律制御を行なう.ロボットは図2に示す競技場の 3個所に置いた銀5個,黒5個,合計10個のカップ から同色のものを3個探し,車体に積載してスタート ゾーンに戻る作業を行なう.ロボットの性能は,動作 の確実性とゴールまでの所要時間により評価する.
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作品2
図2. 1997年度の競技場と製作したロボットの例

○ 1998年度の課題: 「玉石混合」
   縦横20cmのスタートゾーンに収まる大きさのセ ンサーベースロボットを設計・製作しパソコンにより 自律制御を行なう.ロボットは図3に示す競技場に ばらまかれた2種類(大きさ,重さ,色,電気伝導度 が異なる)のボールからいずれか一種類を集め,制 限時間内に競技場内のゴールカップ(φ10cm×5 cm)に入れる.ロボットの性能は,動作の確実性と ゴールした同種ボールの数により評価する.
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図3. 1998年度の競技場

 なお,ロボットの設計・製作のみを課題とすると「お 遊び」に終わる恐れがあるため,設計資料の文書化, 製作原価の積算,口頭発表会,公開競技会,性能試 験などを含め成績評価を行なう.

2.3 授業形態・授業環境

 履修前に基本事項を修得済みであること,卒業研 究と競合しないことの2点から,第4学年で実施する. 現在,カリキュラムに「メカトロニクスシステム設計」とい う授業科目はなく,この名称は2単位の座学2科目と3 単位の工学実験をあわせた総合授業の通称である. 授業は,教室での講義と実験室での作業からなる. 講義の内容は,ガイダンス,機構・回路設計および I/Oボードのプログラミング等に必要な実践的知識の 提供,作文技術・口頭発表技術の解説等が中心であ る.定期試験では,これら講義内容に関連して筆記 試験を実施する.
 実験室での作業は,小人数(標準5名)のチーム単 位で行なう.各チームは,リーダを中心に課題を実現 するアイディア創りから最終報告書の作成までを行な う運命共同体である.作業時間中,学生は指定され た場所(2つの実験室,CAD室,実習工場)に居る限 り,教官がその作業内容に干渉することはない.教官 は学生の申し出があれば,補足説明やアドバイスを 行なう.作業に関する評価は,提出物(ロボット,報告 書,図面など)と発表会等のプレゼンテーションに対 してチーム単位で行なう.
 製作にあたり,必要な部品の選択,製作予算の管 理は各製作チームが行なう.各チームには,あらかじ め予算(使用部品の総額)と標準部品リストが提示さ れる.標準部品は,実験室にストックを持つ物品で要 求により随時払い出す.標準部品以外の物品は,規 格表・カタログ・雑誌等で調べ,規格と購入先を購入 依頼用紙に記入して入手する.物品選定に用いるた め,機構部品,電子部品等のカタログ,規格表および 参考図書を実験室に整備し,標準部品のサンプルを 展示している.なお,学生が物品を店頭で直接購入 することは認めていない.

2.4 授業計画

 メカトロニクスシステム設計の年間スケジュールは, およそ表1の通りである.定期試験ならびに学校行事 の日程を考慮し,学生の負担が集中しないよう配慮し ている.

表1. メカトロニクスシステム設計年間スケジュール
時  期項    目
3年次学年末概要説明・担当分野希望調査
学年始めテーマ発表,チーム編成発表
4〜5月中旬アイディア創り,担当分野別講義
5月末第1回中間報告書提出
6月始め報告書内容に関する質疑応答
前期中間試験後部品発注,ロボット製作開始
7月初旬中間発表会
7月末まで夏期休業中の実験室開放・その1
8月下旬夏期休業中の実験室開放・その2
9月下旬第2回中間報告書提出,メカ提出
10月下旬プレ・ロボット競技会
11月初旬ロボット競技会(学生祭専門展示)
12月初旬性能試験会,写真撮影
1月下旬最終発表会
2月中旬最終報告書提出
2月末ロボット解体,リサイクル


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図4. 学生祭風
fig5
図5. 発表会風景

2.5 学生の反応と教育効果

 学生にとっては,かなりハードな1年であるようだ.年 度初めは,授業でロボットを作ることへの期待と課題 を実現できるだろうかという不安が交錯している. 設計・製作と進むうち,解決すべき問題が次々と明 らかになり,“モノづくり”の大変さに気付く.締切間際 のなりふりかまわぬ追い込みとロボット競技会での興 奮を味わい,ドキュメンテーションの作業量の多さに 疲れ果てて1年が終わる.ロボット解体後の感想は, およそ「しんどかったけれど,こんな授業があってよ かった」,「ただし,2度受けたいと思わない」といった ところである.
 積極的に取り組む学生は,1年で大きく成長するが, 途中で息切れする学生もいる.押しなべて,通常の 講義,実験に比べて自ら学ぶことが多く,勉学に対す る積極性を養う効果があると思われる.一例として,5 年生の卒業研究の指導が,「メカトロニクスシステム設 計」実施前に比べて楽になったように感じる.卒研課 題を年度初めに決めると,テーマに沿って自主的に 考え,行動するようになった.

3. メカトロニクスのための情報処理

3.1 情報処理のカリキュラム

 当学科のカリキュラムに占める情報系科目の割合は, 全体の20%程度である.構成は,情報処理T,U, V,計算機システムT,Uの5科目10単位である.こ のうち2単位は,メカトロニクスシステム設計に配分さ れ,残り8単位でアルゴリズムの初歩,フローチャート, C言語の基礎,数値計算,論理演算,計算機ハード ウエアの基礎などを演習を交えて学習する.

3.2 ハードウエアを動かすためのプログラミング

 メカトロニクスシステム設計で作製するロボットの制 御プログラムは,MS-DOS上でTurbo-Cにより記述 する.PPIやADCのレジスタなどの低レベルのI/O をパソコンレベルで操作するには,MS-DOS上での プログラミングが直接的で簡単である.
 学生たちは,メカトロニクスシステム設計ではじめて I/O拡張ボードを使用する.48ポートのパラレル入出 力(TTLレベル)と12ビットADC(8チャンネル),12 ビットDAC(1チャンネル),ロータリエンコーダ用カウ ンタ(1チャンネル),割込みタイマ(1チャンネル)を備 えたパソコン拡張スロット用I/Oボードが各チーム共 通のプラットホームである.
 プログラミングに先立って,I/O拡張ボードの概要説 明とハードウエア割り込みに関する講義を行い, 8255PPI,ADC,DAC,カウンタ,8259PICの機能 とコントロールレジスタの設定法を説明する.ハードウ エア割り込みについては,簡単なサンプルプログラム (C言語)を配布し,理解の助けとしている.
 学生には,ハードウェアタイマによるハードウェア割 込みを用いたプログラミングを推奨しているが,各 チームの事情により,ソフトウエアタイマのみでロボッ ト制御プログラムを作製することもある.機械制御を目 的とする実時間プログラミングでは,ハードウェア割り 込みの理解が,キーポイントの一つとなる.

3.3 CAD/CAM

 メカトロニクスシステム設計では,機械製図のためパ ソコン版Auto CAD22セット,PCB(プリント回路基 板)作製用のためパソコンベースCAD/CAM4セット を使用している.
 Auto CADは,もっぱら機械設計製図の授業を念 頭に置いた設備で,学科改組時に整備したCAD室 (機械工学科と共用)に設置されている.導入当初か らマシンパワーが不足ぎみで,少し複雑な図面を作 成しようとすると,入力ごとに待ち時間が生じ,必ずし も十分な作業環境ではない.
 PCB作製用CAD/CAM(ミッツ(株)製)は,Easy CADにより作成した回路パターンを両面生基板上に 切削法により加工するシステムである.フォトマスクや 手書きパターンを用いた手作業のエッチング法に比 べて作業性・再現性が優れており,多品種少量の試 作基板作製に適したシステムである.メカトロニクスシ ステム設計開始時に導入し,回路基板を作製するた め用いている.CAD/CAM操作法は,3年次の実験 の時間に学ぶ.なお,専任のオペレータを置かず, すべての操作を学生に任せているため,取扱いの不 手際による加工刃物の折損が多く,ランニングコスト は必ずしも安価ではない.

3.4 今後の課題

 パソコンの進化サイクルは短く,ハード,ソフトの陳 腐化が著しい.道具としての最低限の設備を維持す るだけでも限られた学生実験予算での運営には限界 がある.メカトロニクスシステム設計は学科の目玉授 業であるとの意識から,学科内では予算的に優遇さ れている.しかし,パソコンの増設やソフトの更新等, 学生の要求に十分応えているとは言い難い.
 メカトロニクスのように,ハードウエアに近い部分の プログラミングでは,昨今のパソコンOSの肥大化は 必ずしも歓迎できない.機械系科目の比重が大きい 当学科では,ワンチップマイコンやボードコンピュータ を用いた組込みコンピュータまで学習範囲を広げるこ とは困難である.したがって,今後ともパソコンベース の機械制御を続ける予定であるが,Windowsの普及 に伴ない,ハードウェアに密着した低レベルのプログ ラミングが困難になりつつある.今後とも,MS-DOS ベースの授業を続けるべきか,時流に沿ってVxDを 用いたWindowsベースのプログラミングに移行すべ きか思案中である.

4. ドキュユメント作成のための情報処理

4.1 技術文書を書く道具

 Windows95の普及に伴ない,文書を作成するため のコンピュータ環境は飛躍的に向上し,かつ安価と なった.
 はじめDOS/Vパソコン4台(PCB CAD/CAMと共 用)とLBP4台でスタートし,現在DOS/Vパソコン8 台を実験室に配置している.実験室では,Word95, Excel95が標準ソフトである.なお,昨年度末に,学 内共同利用施設であるコンピュータサイエンスセンタ の大演習室に,Windows NTパソコン46台が導入さ れた.ここでWord97,Excel97を利用できるようにな り,文書作成環境はさらに改善された.
 技術系の文書では,式,図表が頻繁に使用される. 数式は,Wordの標準機能を用いる.図に関する表 現力は,ワープロ単体では限界があるので,実験室 のパソコンには回路図作図用に簡易CADソフト Candy6(今年度,Candy7に更新),フローチャート や挿し絵作図用にVisioを組込んでいる.Visioは, Wordと連携して使用することができ便利である.

4.2 今後の課題

 前節で述べたように,技術文書を作成するためのコ ンピュータ環境はほぼ整った.運用上の課題は,ソフ トの陳腐化と下位非互換性である.年度ごとに順次整 備したため,購入ソフトのバージョンが異なり,下位互 換性不足のため,特定のパソコンでしか開けないファ イルができると運用効率が低下する.ソフトの価格が 低下したとはいえ,まとまった台数の更新は実験予算 を圧迫する要因である.
 実験室のパソコンを学生に開放していると,コン ピュータウイルスに感染することがあり,対策に苦慮し ている.ネットワーク接続はしていないが,FDを経由 してあっという間に感染が広がるようである.現在,ワ クチンソフトの導入を進めている.

5. まとめ

 高松高専制御情報工学科のメカトロニクスシステム 設計について,概要を述べた.メカトロニクスシステム 設計は,学生が考え,行動することを主題とした総合 授業である.学科全体の予算的,精神的支援のもと, 今年度で3年目を迎え,制御情報工学科の目玉授業 として定着しつつある.br  授業としての形が整うとともにダイナミックさが失われ ないよう,各校の創造性授業に関する報告を参考とし, 今後とも指導法・指導内容の検討・改善を続けたいと 考えている.

参考文献

  1.  藤澤正一郎 他: 阪府高専システム制御工学科におけ るロボティクスメカトロニクス教育,ロボティクスメカトロニクス’ 95講演会講演論文集,p.602(1995).
  2.  川上誠 他: 沼津高専の自律知能ロボット開発,ロボティ クスメカトロニクス’95講演会講演論文集,p.616(1995).
  3.  岡正人 他: 宇部工業高等専門学校機械工学科にお けるメカトロニクス教育,ロボティクスメカトロニクス’96講演 会講演論文集,p.391(1996).
  4.  大泉哲哉 他: 自立型ロボット等の開発実習による創造 性教育の試み,高専教育,20,p.152(1997).
  5.  森田良文 他: 専攻科実験における「もの作り」教育シス テムの構築,高専教育,20,p.208(1997).
  6.  関森大介 他: 徳山高専における自発形創造教育シス テム,ロボティクスメカトロニクス’97講演会講演論文集,p. 753(1997).
  7.  植村眞一郎 他: 「創造設計」教育の試みと評価,高専 教育,21,p.295(1998).
  8.  早川恭弘 他: 奈良高専におけるメカトロ教育について, ロボティクスメカトロニクス’98講演会講演論文集,2AV4-3 (1998).
  9.  平岡延章 他:高松高専制御情報工学科におけるメカト ロニクスシステム設計,ロボティクスメカトロニクス’97講演会 講演論文集,p.743(1997).
  10.  平岡延章 他: 学生に目的意識を抱かせる方策(高松 高専制御情報工学科における実践事例報告),平成9年度 国専協主催四国地区高等専門学校教官研究集会(新居浜 高専)(1997).
  11.  由良諭 他: 高専学生に対するメカトロニクス教育への 取り組み,平成10年度電気学会全国大会講演論文集,p. 1-6(1998).