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私が最近読んだ本(教員推薦)



広島第二県女二年西組―原爆で死んだ級友たち 関 千枝子 筑摩書房
※書影はopenBDから
出渕 幹郎 (学生相談室教員)
 広島第二県女二年西組は1945年8月6日、原爆が投下された爆心地から1.1キロ南の地点に勤労動員されていました。そして全員が死亡しました(1名は大惨禍を生き延びたが10数年後原爆症で死亡)。筆者はそのクラスの一員ですが、偶然病気で動員を免れ、生き延びました。筆者関千枝子が死亡した39名全ての旧友の身内を訪ね、旧友たちが死ぬまでを聞き書きした執念の書です。キノコ雲の下では何が起こっていたのか、阿鼻叫喚の記録です。
小島 信夫
菅野満子の手紙
集英社
出渕 幹郎 (学生相談室教員)
 以前の図書館便りに小島信夫の「抱擁家族」の世界は、私たちの生きている世界(こう一括りにしていいものか躊躇しますが)と180°くらいずれた世界だと書きました。しかし実際のところ、2つの世界の間を行きつ戻りつし、あなたや私が生きている世界を揺さぶります。「抱擁家族」執筆の3年後から、小島は大作「別れる理由」で13年をかけて小説作法の枠組みを荒らし、踏み越えた末に、大傑作(なんとも猥雑なメタ小説です)「菅野満子の手紙」「寓話」に至ります(驚くことに、この2作はほぼ同時期に並行して書かれました)。そして、その2作執筆後も(90歳を超えるまで)自分自身とその周辺について、現実と虚構が薄皮で隔てられた虚々実々の小説世界を展開します。あるレベル以上の小説読みは、「抱擁家族」「別れる理由」「菅野満子の手紙」「寓話」と読んでいけばその世界に唸るしかないと思います(私の考えでは、つまらないと感じる人は小説を読む力がない。「別れる理由」を越えられるかがその境目?)。できれば「菅野満子の手紙」を読みながら「女流」を(どっぷりはまりかけている人は由起しげ子の「やさしい良人も」)「寓話」を読みながら「墓碑銘」と「燕京大学部隊」を読むことをお勧めします。小島ワールドにはまったら、「別れる理由」以降の小説はどれもかけがえのないお宝です。
 高松キャンパスT先生、もし小島に深入りしたことがないなら是非読んでみてください。
 ああ、いわゆる近代小説(国内外の)読みの人は「私の作家評伝」「私の作家遍歴」もどうぞ。こちらは小島信夫創造の源泉というだけでなく、悶えるほど面白い。
小島 信夫
寓話
福武書店
Chimamannda Ngozi Adichie
Americanah
出渕 幹郎 (学生相談室教員)
 著者Chimamannda Ngozi Adichie(チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ)はナイジェリア出身の作家で、現在はアメリカで著作活動を続けています。ちなみに、ナイジェリアは日本よりはるかに多い約2億の人口を擁し、最大の都市ラゴスは1千万人を超える東京並みのメガシティーですが、部族国家でもあります。1970年代には、大きな内戦(いわゆるビアフラ戦争)を経験しており、推薦の2冊のうち1冊はその内戦が舞台になっている本です。私がアディーチェに出会ったのはここ数年ですが、彼女のどの作品も、現代英語の厳しく研ぎ澄まされた美しさと豊かさを今までで最も堪能させてくれました。特に別れのシーンを抑制された筆で描き出す技には何度か泣かされました。アディーチェの英語について語り合えることができた日本人は、今日までまだたった一人だけですが、この英語がわかるレベルに達している日本人が少ないのはとても残念です。アディーチェはフェミニストとしての著作も何冊かあり、TEDで視聴できます。こちらの方がハードルが低く、英語があまりできない人にもついていけます。入門にいかがでしょう。
Chimamannda Ngozi Adichie
Half of a Yellow Sun
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