ビギナーズラック

 

 

突然,高専機構より一通のメールが届いた。一読すると,先日提出した高専教育の論文に,何か問題があったようだ。

高専では,教育方法や実践結果を「高専教育」という論文にまとめて報告するシステムがある。
高専では教育論文も一つの論文として認められるため,それを書くのは教育方法を広めるだけでなく,教員の実績を作るためにも重要となっている。
今年,私は担当している回路設計の実習内容をまとめて提出した。
先日,その論文の採録が決まり,胸をなで下ろしていたところだった。

メールを一読した時は,論文内容にクレームが付き,リジェクト(取り下げ)されたのかと焦ったが,よく内容を読んでみると,私の書いた論文が優秀賞に選ばれたので授賞式に来てほしいというものであった。
あまりにも突然の朗報に喜んで良いものか戸惑ったが,校長先生よりお祝いのメッセージをいただき,これは名誉ある賞であると確信した。
 
私の50年の人生の中で賞などもらったことがなく,初めての経験であった。
早速その晩家族に自慢したが,子供らは無反応,妻は「そう」と軽く受け流すだけであった。
この感動を分かち合える相手が欲しくて,周囲の先生に話した。
「すごいじゃないですか」,「さすがですね」
という賞賛の言葉を期待していたが,返ってきた返事は,
「ビギナーズラックですね」
であった。
(単なる運とは失礼な!)
実力を認めてもらえないことに憤慨した。
こうなったら,もう一度賞を取って実力を認めさせようと思い,翌年は論文を3つ書いた。
どれも力を入れて書き,なかなかの出来栄えであった。
3つとも受賞したら,みんなに妬まれるのではないかと心配した。
しかしそんな心配は不要で,受賞の連絡は待てども来なかった。
査読者によっては,論文の価値が分からないこともあるだろうと思い,次の年も,そのまた次の年も再度賞を夢見て書き続けた。
しかし結果は,なしのつぶてであった。

そうこうしているうちに「高専教育」の論文を提出するシステムは,廃止になってしまった。
こして私の受賞は,ビギナーズラックである,と結論付けられたのであった。
今は,次のビギナーズラックを目指し,あれこれ模索している。

2016年01月01日